用户:1597446162/钢之大地

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1597446162讨论 | 贡献2020年5月16日 (六) 16:37的版本 (// Edit via Wikiplus)
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Notes.
奈須きのこ


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)引く手|数多《あ ま た》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]




「天使を題材にしたアンソロジー本作らない?」というお誘いを受けて形にした短編です。
 が、そのアンソロジーが文書主体ならいざしらず、残る二人がお絵描きさんなのですからさあ大変。
 半分以上が絵という本において文章の存在意義なんてあるのだろうか?
 それが短編なら尚更じゃないか? という疑心暗鬼に囚われた結果、変則的な短編を仕上げたのが「Notes.」でした。
 短い期間ながらも善戦したな、と思える作品になってくれて満足だったのを記憶しています。
 見難い作品ですが、すべてワープロで打ったものをハサミでジョキジョキ切ってベタベタとページ構成したのも愉快な思い出です。
 ……こっちの話も機会があれば、ちゃんとした一連の流れにそった物語として形にしてあげたいなあ、と
 ブラックバレルを見るたびに思っちゃったりしています。
[#改ページ]


   0/GODO
    angel notes.
  the metter of knight arms
    …and over count 1999
     type:other


 機体は対流圏をさらに上昇していく
 灰色の雲海は、いまだ消えない。

 鉄で作られた翼は、鉛《なまり》色をした大空を飛行する
 人類種にとって共通の敵を排除する死命のもとに。

 戦闘の末、作戦に参加した機体は一機をのぞいて全滅した。
 ロートル扱いされていた自動操縦が幸いしたのだろう
 操縦者がヒトでないこの機体だけは、敵の体温の影響はうけなかった。

 ただ独り飛び続ける。
 機体に響く生命の鼓動は、やはり、自分のものだけだった。

 ハンガーを開けて、銃をかまえる
 機体に流れこんでくる外気は冷たく、肺を灼《や》いた。
 機体温度はマイナスに達し、防寒具は最低限の効果だけを発揮する
 生命活動をかろうじて維持するレヴェル

 もともと飛行種を輸送するだけのこの機体には、狙撃するための装備などない。
 戦うのなら、命を削らなければならなかった。

 極寒と暴風
 背後には脳漿《のうしょう》が耳鼻《じび》からあふれだした仲間たちの死体
 いつまで飛び続けられるか予想もつかない旧《ふる》い飛行機
 状況は、唄いだしたくなるほど容赦なく最低だった。

 狙撃用に組み替えた黒い銃身を構えたまま、ただ待ち続けた
 敵の姿がスコープごしに写る瞬間、
 トリガーを引いて楽になれる瞬間を。

 機内の時刻盤は、七日分の時間を重ねていた
 まだ七日しかたっていない。
 マヒした頭は、あと一ヵ月でも一年でも、この姿勢のまま待ち続けられる気がした
 肉体は、ずっと斃《たお》れる寸前だった。


 どれくらいの月日が流れただろう
 意識も、
 言語も、
 自分も、
 喪われてしまった時、
 全てを取り戻した。
 銃の照準が〝敵〟をとらえる
 迷わずトリガーを引いた。

 限界を突破していた脳髄《のうずい》が、焼き切れる。
 眠りに落ちる一瞬の間隙、
 意識が白く塗り潰される前のわずかな間。
 たしかに、自分が、消えゆくまえに敵の姿を視認した。
 なんて、
 美しい。


―――――雲の切れ間に、天使が見える。
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   Notes.

     ⅰ Original Sin
     ⅱ Public Garden
     ⅲ Roman
     ⅳ After Images
     ⅴ How A Star Is Born
     ⅵ Glitter Love

[#地付き]1999 May. K.nasu
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   1/Original Sin


 仕事を終えて自分のねぐらに帰ってみれば、部屋にはギターを持った天使がいた。
 ……どうやら、俺はついにいかれちまったらしい。
 波打つような長い金髪と、真っ白いワンピース。少女めいた幼さを残した顔に、頭の上に浮かんでいる光の輪っか。これが天使じゃないとしたら、一体何が天使だというのだろう。
「こんばんは」と、ぎこちない笑顔で天使はおじぎをした。
 目蓋《ま ぶた》をこすってから部屋にあがった。天使は部屋のまんなかで突っ立ったまま、なぜかギターを抱えてこちらをちょろちょろと見つめてくる。
「なんだ、おまえ」
「はい、天使です」
 にっこりと笑って天使は言った。
「見ればわかる。なんで俺の部屋にいるのかって聞いてるんだ。売込なら部屋の間違いだぜ。あいにく、天使を買うほどの稼ぎはねえからな」
「あの、売込じゃないんです。その、なんていえばいいんでしょう。あなたのお世話をしたいな、なんて」
「間に合ってるから、出ていってくれ」
「そおゆうわけにはいきません。私、なんでも出来るんですから!」
 胸をはって言うので、部屋の掃除をやらせてみた。
結果は悲惨を通り越して凄惨だった。
「あの、お料理なら完璧」
 びっと人差し指をたてて天使は言う。
「結構だ。工場の食い物は体に合わない。栄養がありすぎて血管が切れちまうんだよ。言ってる意味、わかるか?」
 こくり、と天使は頷く。俺が亜麗百種に含まれない人間種だという事は知っているみたいだ。
「で、他に何ができるんだ」
「ギターを弾きます!」
 元気に言って、天使は手に持ったギターをかきならす。
 青いギターは電気を使って音を鳴らすギターで、天使にはとうてい似合わない品物だ。
 しかも、へたくそ。
「いいから出てけ」
 天使の手をとって、窓から外に蹴りだした。

 何日か経って、病院にいった。脳に異常はありません、と魚の顔をした医師は答えた。
 毎日、仕事が終わってから天使を追い払うのは体力を使う。いつからか、俺は天使に根負けしていた。
「空が昏《くら》い」と、天使は窓から空を見上げて呟く。
 そんな常識さえ知らない天使は、やはり亜麗百種に含まれる人工の天使ではないようだ。
「なあ、おまえは何処から来たんだ。断層からこっちの亜麗じゃないだろ」
「私は亜麗じゃないですよ」
 じゃあ、なんだというのだろう。
「私は、この街に住むヒト人の幻想から作られたモノですから。だからこんなにキレイなんです。皆さんの心が汚れていなくて、良かった」
 嬉しそうに、天使はくるりとまわる。スカートの裾がドレスのように揺らめいていた。
 その在り方は幻想といえばたしかに幻想じみていた。天使は美しすぎて、この鋼の大地には似合わない。
 金色の髪は、眩しすぎて逆に毒に映る。
 ならそれは―――やはり、俺だけが見ている幻なのか。
「その、みんなの幻想がさ。なんだって俺の所に現れるんだ」
「貴方が私を殺したヒトだからに決まってるじゃないですか!」
 殺した、という事実より、それに気がつかなかった事に、天使は怒った。
 復讐の為か、と聞くと、復讐ってなんですか、なんて言葉を返された。

 天使はわりと器用で、ゆっくりと色々な事を学んでいく。掃除の意味も今ではきちんと理解しているようだった。例外はギターに関する事だけだろう。
「ちっともギターがうまくなりません。イメージ通りに弾いてるのに、元曲と音が違うんです」
 なるほど、弾きたい曲があったのか。それならうまくいく筈がない。
「あったりまえだ。そのギターな、チューニングがあってないんだよ」
 そう、初めから、狂っている。
 チューニングってなんですか、と天使は首をかしげていた。
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   2/Public Garden


 背中に鳥の翼が生えていて、体の作りはヒト型の女性体。それでいて造形が美しい事まで重なれば、その生物は天使と呼ばれる。
 俺の仕事は、その天使を一日単位二十匹ほど射ち殺す事だ。だから、天使と呼ばれる全てのモノに仇と見られるのは、実はそうめずらしい事でもなかった。

     …

 一年前に俺が移住したこのエリアは、鋼の大地の中において特異な街だつた。
 死に絶えた星の地表には、植物は育たない。だというのに街の至る所には鼠色した木々が生えており、丘には枯葉色の草原さえあった。街の中心である丘からは二本の大樹が伸びていて、街の空を覆っている。この樹は雲海まで届いていて、その巨大さからセカイジュと呼ばれていた。

     …

 俺は、仕事に天使狩りを選んだ。
 この街では毎日のように空から天使が下りてきて、ヒト人に襲いかかる。それらは知性のない、ただ外見だけが天使に似た生物だ。ヒトを襲うといっても野犬程度の危険さで、実害はあまりない。
 だがほおっておけば街は天使で埋め尽くされてしまうため、街の管理委員会は仕方なく天使の掃討係を用意した。
 天使というのは落ちてくる場所が決まっているのか、よく郊外の森に落ちてくる。

 銃の引き金をひいて、肩で発射の衝撃を受けとめる。
 裸体のまま落ちてきた天使は、額を打ち抜かれて地面に落下した。
 森の地面には舞い散った葉と、数えきれないほどの天使の死体が重なりあっている。
 歩きにくいデコボコの地面を横断して、街を囲む城壁の中へと戻る。と、違う部署を担当している獣人が手をふって近寄ってきた。
「よう。景気はどうだい?」
「そっちと変わらねえよ。一匹あたり銅三枚だ。弾代と差し引けば銅一枚にも満たない」
「銃を使うからだ。男なら体で勝負しろ、体で」
「悪いが、あいにくとそこまで丈夫な作りをしてなくてね。外の酸素を取り入れるにも薬を飲まなきゃ汚染される体だ。生きていくだけで精一杯ってコト」
「そうか。不便なんだな、人間っていうのも」
「ああ。不便だぜ、人間っていうのは」
 そう。世界において、人間は間違いなく不便だ。
 だから昔の人間は色々と工夫をこらして道具を作っていたのだろう。その結果として生み出されたのが亜麗であり、その結末として用意されたのが大戦だ。
 そうして、純粋な人間は淘汰《とうた 》された。

 うちに天使という食い扶持が増えてから、仕事の担当区域を増やす事にした。
 あの天使はりっぱに物を食う。工場で作られた素材は無料支給といえど、それにも限りがある。仕方なく一日のノルマを二十から三十に増やした。
 ……天使を食わせるために天使をより多く殺す、というのは一体どうゆう皮肉なのだろう。
「最近働き者じゃないか、おまえ」
「ストレスを発散してるだけだ。幸いここの標的はみんなストレスの元凶に似ていてね、こんな無意味な仕事でもつい身が入る」
 ヤケになってグチをこぼすと、獣人は理解不能、と首をかしげた。
「仕事熱心なのはいいけどな。最近、騎士団の連中が森を視察してるって話だから気を付けろよ。魔剣使いがな、おまえの事を調べてるらしいぞ」
「―――なんだそりゃ。アリストテレスでもやってくるっていうのか、ここに」
「さあねえ。そんな事より今月も給金が下がるって話だぜ。そっちのがよりリアルな死活問題だろ?」
「だな。こりゃあいよいよ、財政局も俺たちを殺す気になったか」
「オレ、悪い事はなにもやってねえんだけどなぁ」
 そういう隣人は、五十人以上の人間種を無差別に殺害した囚人でもある。
 獣人はため息まじりに俯いて、じっと森に散らかる天使の亡骸を見つめていた。
「なあ。あれ、食えねえかな」
 ぽつり、とよくない名案を思いつく。
「やめとけ。バチがあたるぜ、きっと」
 肩をすくめて、当たり前の返答をした。
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   3/Roman


 仕事帰りに天使につかまった。
 うちにいる天使にではなく、れっきとした亜麗の系統樹の中にいる天使にだ。
「最近つきあい悪いわよ、あんた。私みたいな美人の酌を断るなんて、不能者としか思えないわ」
 強引に酒場に連れ込み、アルコールをつきつけて彼女は言う。……たしかに、ここ半年ばかり彼女と話した記憶はない。
 つまらない会話に花をさかせている最中、他の客に野次をとばされた。天使に向けて、そんな人間種より亜麗の相手をするべきだ、という声がかけられる。俺もそうだと思うのだが、彼女は野次をかけた相手を睨んで黙らせた。
「ごめんね。気分、悪くなった?」
「そりゃあいい気分はしないが、あいつの言う事ももっともだ。なんで俺なんかの相手をするんだ、おまえ。亜麗はより強い種を生むために恋愛をするんだろ。俺に強い子孫は作れないぞ」
「いいじゃない、例外が一人ぐらいいても。それにね、私達は外見の美が大事なの。天使種に近い亜麗は少ないし、あなたは私の好みだし。問題ないわ、実際」
 グラスに入った紫のフィズを口に運びながら、彼女は言った。
 その姿は天使そのものだ。彼女の翼は空を飛ぶ為のものではなく、周囲の重粒子を収束させるための受け皿らしい。天使種は翼がなくとも飛行する。かつて六人姉妹とよばれた亜麗の守護役だった天使種は、戦闘能力においては魔剣を持つ騎士と同格と噂される。
 つまり、単身で核ミサイルなみの破壊活動が出来るということだ。

 酒が進んでいくらか正体をなくした頃、彼女はおかしな事を聞いてきた。
「ねえ。どうしてあなたは銃を使うの?」
「あのなあ。人間は亜麗のようにジンを利用できねえんだよ。腕力もかぎられているから、兵器にたよるのは当然だろ。個人でふりまわせる火器っていったら、銃以外に何がある」
「ふぅん。それって、ようするに人間は戦いに向いていないってコトよね。なのにどうしてあなたは戦うの?」
「……そうだな。たしか、ガキの頃に家族を殺されたんだっけ。復讐するからって、銃を掘り出して射撃の腕をあげたんだ」
「なんだ、よくある話ね」
 ああ、よくある話さ、と笑おうとしたが、うまく笑えなかった。今まで、作り笑いが成功した事は一度もない。
「でも、家族って同種ってコトでしょう? こっちにあなた以外の人間種がいるなんて、聞いたコトないけど」
「言ってなかったな。俺はもともとウエストランドの生まれなんだ。大断層のあっちがわ」
「ウエストランドって……あの、黒いアリストテレスに消された大陸―――?」
 驚いて、彼女は黙り込んでしまった。ウエストランドがまるごと灼き消された時、俺はたしか十二か三ほどのガキだったっけ。
 もう、今から七年近く昔の話だ。
「ところでさ。あなた、まだあの仕事やってるの?」
「やってるよ。俺みたいな半端者には他の職はないからな。希少種として保護されるのも嫌だし。……なんだおまえ、また文句言おうってのか。アレとおまえは別物だろ。気にするな、罵迦《ばか》らしい」
「気にするわよ。他のヤツがやるならいいけど。よりによってあなたが毎日天使を殺してるなんて、すっごく頭にくるんだから。ねえ、どうして天使狩りなんかするの?」
 ―――それは、屈折しているからだ。
「―――仕事だから、仕方ないさ」
 目を背けて言う。彼女はこちらの奥底を見透かして、冷たい目をした。
「そうね。あなたは考える事をやめてしまってるものね。だから苦しくないんだわ。けど、そのかわりに楽しくもない。かつての思い出にひたる事もない。あなたが使ってる、機械みたいな日々でしょうね。だから理屈っていう、わかりやすい意味で武装してないと動けないのよ」
 憮然とした顔つきで、天使は言った。でも機械のどこが悪いのだろう。感情さえあれば上等な生き物だというのは、それこそ幻想だ。
「なんだ。今日はやけに絡むな」
「そりゃあ絡みますよーだ。つれないんだもん、ぜーんぜん」
「酔っぱらった天使ってのも、イメージ悪いぜ」
「なによ。これでも故郷じゃ引く手|数多《あ ま た》なんですからね」
 はいはい、と答えて俺もグラスを仰いだ。抑えるつもりだったのに、彼女より先に酔い潰れてしまった。
 天使は最後の質問をする。
「ねえ、あなたはなぜ戦うの?」
 それは、死にたくないからだ。
「なら、どうして死にたくないの?」
 きっと、生きていたいからだ。
「どうして、あなたは生きていたいの?」
 そんなの簡単だ。
 今まで、いいことなんて何ひとつなかったから。
「……そう。理屈がなければ生きていけないなんて、未熟な生物ね、あなたって」
 そうして、彼女は先に席をたった。
 でも、仕方ないだろう。人間が本能で生きてしまったから、世界は一度滅んでしまったんだ。悲観的な理屈で武装することは、残された人間にくだされた唯一の罰なんだから。
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   4/After Images


 騒がしい街の人込みを擦り抜けて、俺は部屋に帰ってきた。
 天使はまだ、飽きもせずにここにいる。
 季節はじき冬。気温は氷点下の臨界を突破して、じきに街は文字通り凍りつく事だろう。
 だが、俺は二年目の冬をこの街で迎える気はなくなっていた。
「最近、街が騒々しいですね」
 窓から街並を見下ろしながら天使は呟く。
 大きな、少女より大きな窓は絵本で見た協会の窓のようだった。
 金色の髪と真白い翼をもった天使は、うつむいて哀しげな顔をする。その背後の窓にうつる街並と二本のセカイジュが、蜃気楼のように仄《ほの》かに煙っていた。
 ……何もかもが灰色の世界の中。この天使だけが、悪夢みたいに綺麗だった。
 天使は遥か地上の風景を見下ろしている。
 街は今、逃げ出そうとするヒト人で混雑していた。
「あの。皆さん、何をしているんでしょう?」
「あれは街をあげての引越しだ。全長三千メートルの空飛ぶアリストテレスに隣りのエリアが潰されてな。ヤツの進行ルートを計算したら、あと三日ほどでこの街を通過するんだと」
「私の、上をですか?」
「俺たちの頭の上だな。セカイジュとぶつかるかもしれない。どちらにせよ、ヤツが通った下は破壊されつくすんだ。街の住人が逃げ出すのも当然だろ」
「ああ、だから皆さんあんなに必死なんですね」
 ぼんやりと地上を眺めながら天天使は呟く。
 俺は呆然と立ち尽くす天使を横目に荷物をまとめはじめた。冬に備えた防寒服と防寒具、個人用のエアメイカーと幾つかの銃を鞄に押し込こむ。それ以外の荷物はここに置いていく事にした。
「あなたも、行ってしまうんですか?」
「死にたくないからな。だが今すぐとはいかない。下の騒ぎが納まったころ、 一人で出ていくさ」
 天使は残念そうに目を伏せた。いつも無意味に明るかっただけに、ただそれだけで天使はひどく独りに見えた。
「……最後だから聞いておくぜ。おまえ、一体なんだったんだ?」
 天使ははあ、と緊張感のない返事をする。
 こいつが実在する天使じゃない事だけしか、俺には分からない。
 だから―――最後に、正体ぐらいは知っておきたかったのだ。
 天使は、あっさりと返答した。
「私、皆さんがアリストテレスと呼ぶモノですけど」
 知りませんでした? なんて目で天使はこちらを見つめてきた。
 アリストテレス。突然この星に出現して、例外なくあらゆる生命体の敵となったもの。意思疎通の方法はおろか、その生命体としての生態さえ確かではない計測不能の怪物たち。
 それが、こんな小さな街の、さびれたタワーの安アパートの部屋で、天使の姿をして、ギターを弾いていたなんて、笑い話にもならない。……そんな生物に地球上のあらゆる生命種が適わなかったなんて、神さまはなんて天罰を用意しやがったんだろう。
「ホントに、おまえが?」
「やだなあ、正確にはこの街の地盤がですよ。私だったモノは射ち落とされて、ここに落下したんです。即死でした。それから体の上に木々の芽が生えて、ヒト人が住むようになったんでず」
 天使は語る。この星にはもう生命を育てる力はない。だから緑は芽生えないけれど、土台となる大地が星ではなく一つの生命体の上なら芽生えるのだと。
「本来、私はそういったモノではないんですけど、そうなっちゃいました。皆さんがセカイジュと呼んでいるのは私だったモノの翼です。セカイジュの葉……えっと、つまり翼の羽ですね。舞い落ちた羽は私だったモノのカタチになって落ちていました。もともと、私だったモノはそういう侵略型の生態なんです。この星で広まっている天使では、ナイです」
「それでも、おまえは天使の姿をしている」
「私は、皆さんの幻想ですから。私だったモノの身体は死亡したけれど、意思らしきものは生きていたみたいなんです。ただ、私だったモノには意思という概念はなかったんです。この星の種は知性をカタチにするという、とても優れた機能をもっています。私だったモノが持っていたけど使っていなかった知性は、皆さんをお手本にしてカタチになりました。
 私が天使の姿をしているのは、私だったモノの形態にもっとも近いイメージが天使だったからです。そうなるコトで私は本来なら絶対に意思疎通ができない皆さんと、同じ思考回路ができるようになりました。私は、天使という幻想になるコトで、私になれたんです」
 幻になる事で、天使は、アリストテレスというモノから離脱した。自分でなくなる事で、初めて、自分という物を認識できたおかしな生命。
 ……すでに何者でもない、人々がかってに描いた天使というイメージの具現したもの。
「しあわせか、おまえ?」
 天使ははい、と嬉しそうに頷いた。
 彼女はどこにもいないのに。
 ただ、幻だけが此処にある。
「―――そうか。幻想の中にしか、天使はいられないんだな」
 ふと、天使の定義を思い出した。
 それは翼があって、輪があって、美しくて、そして、幻にすぎないということ―――
 所詮、救いを持ってくるモノなんて、ただの妄想にすぎない。
 そう思うと、天使はそうなんです、と残念そうに答えた。

     ◇

「私が、ほんものの天使ならよかったのに」
 本物の天使よりずっと天使らしい姿で、いつか、そんな事を呟いていた。
[#改ページ]


   5/How A Star Is Born


 灰色の陽射しに染まった雲海の中で、空を行く巨大な十字架が遠くへと消えていく。
 わずかに軌道をずらしたソレは、裁きの雨を地上に降らせながら視界から消えていった。

 ―――戦いは、終わったらしい。

 俺を乗せた飛行機は、対流圏を越えてなお上昇していく。
 ゆっくりとあがっていく。機体の横腹にはおおきな穴がひとつある。
 傷ついた鉄の鳥は言うことを聞かなくなっていた。ただ、全ての翼あるもののユメのように、朽ち果てるまで飛び続けていく。
 いずれは灰色の雲海を突き抜けて、成層圏にまで到着するだろう。そこで呼吸ができるほど俺の身体は強く出来ていない。だがそれを心配する必要もない。そこに到着するまでこっちの体が生きている保証はないのだから。
 構えていた狙撃銃を下げて、壁に寄りかかった。
 ハンガーの扉は開けたまま。いつかのように冷たい大気が流れこんで、地上の景色がよく見下ろせた。
 色のない無色の大地。遠くの海さえ色はない。
 それは、完璧なまでに死んだ世界。
 だというのに。鋼色の世界は、それでも、尊すぎて視界を滲ませた。

     …

 五年前もこんな風景を見た。
 あの日、雲を切り裂いて現れた敵はなによりも美しかった。二枚の翼と、どことなくヒトに近いフォルム。天使に似たソレを射った。ソレにとっては豆粒以下の弾丸は、額に食い込んで天使を堕とした。
 あの時。トリガーを引く瞬間、スコープごしにソレと目があった。意思の疎通などない。ただそれだけの事実。
 なのに、永劫に、ソレが雲海に堕ちていく光景を夢見続けた。

     …

 機体に同乗していた天使が目覚めた。一対だった翼の片割れが、無残にもがれている。
 亜麗の高位種である彼女は当然のように今回の作戦に駆り出され、満身創痍になってここに飛び込んできた。
 ほんの羽休みによっただけだったが、運がなかった。彼女がハンガーの扉を開けて入ってきた時、十字架に近付きすぎていたこの飛行機は光の矢の直撃を受けてしまったのだ。
 光は彼女の翼と機体を打ち抜いて、機体の電子頭脳と彼女の意識さえ奪っていった。
 それから数分後の今。昏睡していた天使は、ゆっくりと目を覚ました。
 おはよう、と言うと、彼女は外の景色へと振り向いた。遥かな方角に、アリストテレスと呼ばれるモノが消えていく。
 呆然としている天使に、こちらの全滅と作戦の成功だけを告げた。
 喜んで天使は近寄ってくる。立ち上がれずに手足を使ってやってきた彼女の手が、ぴちゃりと音をたてて滑った。
 床にぶちまいた俺の血は、水溜りになって、天使の体を赤く染めた。
「私―――突き飛ばした時?」
 天使の問いには答えず、ただ外の景気を眺めた。
 途絶えることのなかった雲を越えて飛行機は昇っていく。
 生まれて初めてみた空は、本で知った事実とは違っていた。
「空が、赤い」
 どこかで聴いたコトバを繰り返して、腕に力が入らなくなった。黒い銃が床におちる。
「黒い銃。やっぱり、あなたが鳥堕しをしたヒトだったのね」
「……まあな。世間じゃそうゆう事になってる。だが、その時に運を使い果たしちまったらしい。おかげで今回はこの始末さ」
「バカね。私を、かばったりしたから」
「仕方ねえだろ。目の前で美人にしなれちゃ目覚めが悪い」
 ひどく芝居がかった台詞を口にした。あんまりにキザで、おかしくて笑みがもれた。
 似合わない、と彼女も笑った。
 お互いの横顔も見ずに、俺たちは笑いあった。小さな、弱々しい、優しい声だった。
「あなた、変わったわ。前はこんなに素直じゃなかった。私の他にいいひとがいたって噂、ほんとうだったんだ?」
 ……そんなもの、本当にいたんだろうか。にせものでいいといった天使なら、たしかに今も部屋で帰りを待っているのだろう。
 天使は、体ではなく心を癒すという。
「けど、それは違う。誰かのせいで自分が変わるなんてないんだよ。俺はさ、初めからこういう性格なんだ。冷めたふりをしているだけで根は善人だったのさ。気付かなかったか?」
「あら、そうだったの?」
「ああ、そうだったんだ。ガキの頃はヒーローにだって憧れてたぜ。未熟なままだから、今だってそうなんだろう。……だから、もう行け。今ならまだ、片翼でも地上に下りられるだろう。俺につき合う事はない」
 彼女は立ち上がって、不思議に厳しい眼差しをした。
「いいの? 最後まで、一人で」
「言っただろ。格好つけていたいんだ。ヒーローに憧れているからさ。それに、最後は一人になりたいんだ。―――今まで、ずっと独りだったから」
 慣れない作り笑いは、わりとうまくいったと思う。
 おそらくは、生涯最高の出来だろう。
「じゃあ、さよなら」
 片方だけの翼をはばたかせて、彼女は飛んでいった。
 赤い海を泳ぐ、天使の魚みたいだった。

     ◇

 立ち上がって、操縦席に行った。
 何をしているか自分でも分からないまま、壊れた自動操縦を治してみた。
 運がまだ残っていれば、きっと違う結末になる。
 目蓋を閉じて眠ると、耳元で声がした。
「あなたは、なぜ戦ったの?」
「そりゃあ、死にたくないからな」
「どうして、死にたくなかったの?」
「そりゃあ、生きていたいからな」
「……なら。なぜ生きていたかったの?」
 簡単だ。それは――――――
 記憶の果てで。
 その答えだけが、以前とは違うものだった。
[#改ページ]


   6/Glitter Love


     ◇

 街を後にしようとした日、 一足違いで軍部の使者につかまった。
 五年も前の昔話を覚えていた誰かが、今回の作戦に俺を登録したとの事だ。
 捨てておいた黒い銃身を取りに部屋に戻ると、天使はまだ部屋に残っていた。
「アレと、戦うんですか?」
「らしいね。騎士の連中も集まってるし、軍部はやる気満々だ。最低限、十字架の飛行ルートを変える方針だとさ。それだけなら、まあ、可能性がゼロってわけでもない」
「無理です。皆さんはアリストテレスというモノをわかっていません。アレはこの星の生物ではないんです。勝ち目なんて、ない」
「ない事はないだろ。現に俺達は三体のアリストテレスを倒してる。ヤツらを上回る戦力があれば勝てない相手じゃない」
「そうでしょうか。アレらは、この星の常識とは相容れません。だから死という概念さえない。目的をはたすまで活動をやめないモノなんです」
「目的? おまえ達に、そんなものがあったのか?」
「はい。私達自身のモノではないんですけど、あるんです。カレらは、星の望みを叶えるために飛来しました。……この星は自らに棲息する生命によって死に絶えました。星自体は、自らの死を悲観しません。惑星上に発生した生命種によって滅び去るのも『いいこと』なんです。星にあるのは意思だけであって意味ではありませんから。
 けれど、例外が出来てしまった。星は、自らを滅ぼした種も星と運命を共にするからこそ赦すんです。なのに、人間種は星さえ死に絶えた大地でなお存命してしまっている。自らの死の上でさらに生き続けるモノに恐怖したこの星は、最期に助けを呼びました。どうか、いまだ存命する生命種を絶滅させてほしい、と」
「……そうか。それが、おまえ達か」
 呟いた言葉に、天使はいえ、と首をふった。
「星の助けを聞き届けられのは、やはり同種である星だけです。私、いえ、私達は、この星の意思を聞き届けた他天体から選抜された、その星における最高種なんです。身近な例で言うと、天の亡骸と呼ばれたアリストテレス……私だったモノは金星で最も優れた個体でした」
「なん、だって……?」
 しらず、息を飲んだ。俺達の敵は、他天体という異常識の系統樹の頂点に立つただ一つの生命種なのか。その天体で最強の生命は、転じてその天体そのものでもある。この星で生き延びた人間種は、つまり、八体の惑星そのものを相手にしていたわけだ。
「―――ああ、そりゃあ、勝ち目なんかねえな」
 はい、と申し訳なさそうに天使は頷いた。
「しかも正しいのはそっちときた。……ったく。二千年目の予言を受け入れていれば、人間は被害者のままで終われたのにな」
「違います……! 悪いのはアリストテレスのほうです。カレらには意思がないんです。意思がないのに生命を消すのは、いけない事じゃないんですか」
 この星の常識を学んだ天使は、そう言った。
 だが、この星にはもう善悪の観念なんかない。二律背反の規則は、ただ生きるか死ぬかという事だけだ。
 だから―――今まで生きてきた俺は、死ぬ側にはまわれない。
「変わらないさ。俺だって戦う意義なんかなかった。たぶんこの先もねえだろうよ。意味もなく殺し合うという所で、俺達とヤツらは同等なんだ。これは、生命の一番シンプルな在り方だろう?」
 天使は答えない。
「おまえはどうするんだ。同じ目的だからといって、あの十字架とおまえは別物なんだろう? ならこの街ごと、おまえの体は破壊されるぞ。即死したっていったが、それは俺達の言い方だ。他天体の生命種に、この星でいう死が該当するとは思えない。本当はもう動けるんだろ、おまえ」
 天使は頷いて、首を横にふった。
「ダメです。私が動けば、翼の外皮が砕け散っちゃうんです。皆さんでいうセカイジュの葉がみんな散ってしまいます。そうすれば数えきれないほどの天使が降りそそぎます。そうなったら、アリストテレスが来る前にみんな死んじゃうじゃないですか」
 暗い顔をして天使は言った。
 ……たしかに。雲海にまで届くほどの二本の樹の葉の数は、現存している人間種の総数を遥かに上回っている。放たれた何億という天使は、瞬く間に星の地表を覆ってしまうだろう。
「だが、そのためにおまえが死ぬぞ」
「いいんです。私は皆さんですから。私は、生み出された幻想にすぎません」
「そんなもの、ただ知識を与えただけだろ。おまえは俺達とは違う。おまえにとって俺達なんてのはな、わかりやすい装飾みたいなもんだ。さっさと脱ぎ捨てて身軽になっちまえばいい」
 天使は哀しげに笑って、やはり、首を横にふった。
「罵迦か、おまえ」
「そうですよね。でも、仕方ないじゃないですか。
[#地付き]―――私、ここが気に入っちゃたんですから」
 瞳に涙をうかべて、満足そうに天使は言った。
 それに、どんな反論をしろというのだろう。
「……そうか。そりゃあ、仕方ねえな」
 はい、と頷くと、天使はじっと俺を見つめた。……真摯《しんし 》な眼差しは、無言であなたは? と問いかけてくる。
「私、もうすぐ死ぬんですよ。ご褒美にそれぐらい教えてくれても、バチはあたらないと思います」
 ……この星にやってきたバチそのものが、無責任にもそう云った。
 俺は荷物を背負って答えた。
「ああ、わかった、白状してやるよ。……俺もこの街を愛してる。だいたい―――あの時から、俺はおまえにとり憑かれたようなものなんだ」
 え、と天使は驚いて目を開かせた。
「―――あ、あの、それはどういう意味なんでしょう?」
「あれからずっと、おまえに恋をしていたって事だろ。俺も、今になって気がついた」
 捨て鉢になって言うと、天使は顔を輝かせて、すぐに俯いてしまった。
「でも、わたしは人間じゃありません」
 そんな事に、天使はいまさら気がついていた。
 ……まったく。罵迦じゃないのか、ほんとうに。
「あのなぁ。この世界には人間は俺一人しかいないんだぞ。そんな事が、一体何の問題になるっていうんだ」
「あ、たしかにそうですね」天使は感心して頷いた。
 これ以上話す事はない。軍から召集のかかる時間が近づいて、俺は外へと歩きだした。
「じゃあな。次は俺なんかよりもっといいユメを持ってるヤツの所に行けよ。そうすればきっとおまえは、本物の天使になれる」
 ―――俺が抱く幻想は、どこかいびつに歪んでいるから。
 最後に振り向いて言うと、天使は穏やかな顔をしていいえ、と答えた。
「ほんものの天使なんていませんよ。私は、にせもののままで、いいです」
 幻想は幻想のままでいるといった。
 そんなものかと納得して、俺は部屋を後にした。

 部屋には姉のギターと、にせものの天使だけが残った。


[#地付き]サークル「TYPE-MOON」発行  
[#地付き]同人誌「月姫読本」所収
[#改ページ]


   「Notes.」用語解説[#底本下段に配置]


 鋼の大地 [over count 1999]
[#ここから2字下げ]
 臨終した星。死に絶えた惑星。生物の住めない世界。
 現在の世界の名称。正式名称ではなく、荒廃した大地に生きるヒト人の間に伝わった俗称。
 鋼の大地の記名が示すとおり、現在の大陸の大部分はひび割れた荒野であり、灰色と白濁とした雲に覆われている。
 植物は育つことはなく、大気はかつてのように動物に適した物ではなくなっている。
 人間種ふうに言うのなら、徹底した世紀末。けれど母体である星が死亡しても、人間種はその発達した文明技術によって生き長らえた。
 かつて人々が思い描いた星の終わりでさえ、人間種を滅亡させる事はできなかった。
[#ここで字下げ終わり]

 亜麗百種 [a-ray]
[#ここから2字下げ]
 星の資源を使いきった人類が生み出した次世代の霊長類。
 かつての星に現存していた各生物種をモチーフにしたもの。荒廃した星でも生存可能であるように生態を大きく改良・強化されたもの。その系統樹は様々で、大きく分類して百種にわたる。一から十までの位である亜麗は単一種であり、群体ではない。
 中には人間としての遺伝子を含み、人間と似た形態の亜麗も存在するが、やはり大部分は様々な生命種と霊長類とが融合、進化したものである。
[#ここで字下げ終わり]

 人間種 [Liner]
[#ここから2字下げ]
 鋼の大地における人類。かつての人間種が、そのままの姿でこの世界に対応できるように進化したもの。正確には彼らも亜麗に含まれる。
 現在の環境に対応して生活ができるが、やはり人間としての機能を上回る能力はない。
 かつての文明社会を再生しようと国家を形成している。亜麗百種とは不可侵状態。
[#ここで字下げ終わり]

 大戦 [Babel's Tale]
[#ここから2字下げ]
 星の臨終後、生き延びた人類と亜麗百種の間におきた戦争。
 生き残りをかけた人類と、世界の覇権をかけた亜麗との争い。
 群体ではなかった亜麗を統一した六人姉妹の前に人類は敗北寸前にまでおいこまれた。大戦末期、人類側は人間種と騎士を生み出し、戦いは死した星をさらに死滅させる大戦へと発展する。
 大戦の勝者はいない。両勢力の戦いは、突如飛来した第三者の手によってどちらも壊滅寸前に追い込まれる事で幕をおろした。
[#ここで字下げ終わり]

 騎士 [Ether Liner]
[#ここから2字下げ]
 人間種の中でも激変した環境の影響をより強く受諾した生命種。魔剣と呼ばれる特殊兵器を使用する。旧時代の兵器の助力なしで亜麗と対等に競いあえる攻性種。
 現在は七十八人が登録されている。
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 魔剣 [Knight arms]
[#ここから2字下げ]
 騎士が持つ武器の総称。
 この世界に生まれた人間種は、すべからくジンの影響をうける。生誕の際にジンを多く体内に含んで誕生した赤子は、それを自らの骨子として育て上げ、成人のさいに外界にカタチとして産み落とす。この、いまだ未解析のジンで形成された兵器は様々な現象を誘発し、その影響は十分に兵器と呼べるレベルをもっている。
 魔剣をカタチにできる人間は数少なく、中でも実戦にもちいられるほど強力な魔剣を持つものを騎士と呼ぶ。一人の騎士につき魔剣は一振りとされる。
[#ここで字下げ終わり]

 ジン [grain "Ether"]
[#ここから2字下げ]
 宇宙塵。惑星としての機能をなくした星にあふれだしたあらゆる有害、計測不能の粒子の総称。人体に有害であるが、ごくまれに人体に特異な変化をもたらす事からエーテルとも呼ばれる。
 亜麗百種、人間種、騎士、ともにこのジンによって生み出された新種にすぎない。大気中に分散するジンのエネルギー変換率は凄まじく、結果としてかつての惑星上ではありえなかった戦闘理論が打ち出された。
 ジンを体内に取り込める亜麗、ジンを結晶化させた魔剣との戦闘において、旧時代の兵器は全てが無価値な物となってしまった。
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 空が、昏い [cloud sky]
[#ここから2字下げ]
 雲に覆われた空。何十と重なった雲層は、大戦以後、空というものを隠している。
 空が灰色なのではなく、空が見えないというコトらしい。
[#ここで字下げ終わり]

 天使 [No-20 Guardian Angel]
[#ここから2字下げ]
 亜麗百種における人工の天使。百種中二十位だが、物質を破壊するという面においてのみ十位中種に肉薄する。単一種の亜麗を守護する郡体。旧世界における最大宗教の天使をオリジナルにもつ。二枚の鳥類の翼をもつ人間種。
 世界崩壊後、大気中に散乱した重粒子を体内に吸収し、それを動力原として活動する攻性種。
[#ここで字下げ終わり]

 人間 [Last-Seed]
[#ここから2字下げ]
 品種改良を受けていない人間種。もしくは、その末裔。すでにこの惑星上では生存不可能な為、絶滅寸前といわれている。
 人間が外界で生存していく為には、薬物や機械によるサポートが必要。空気も素のままで吸引すれば死に至り、工場で生産される食物は身体能力を向上させすぎ、逆に毒となってしまう。
 希少種であるが、希少価値はない。
[#ここで字下げ終わり]

 アリストテレス [  ONE]
[#ここから2字下げ]
 大戦末期に現れた八体の生命種。正体不明の存在。
 それぞれの形態は著しく異なり、その生態も相容れない。
 名称の由来は不明、旧時代の学者にその発端が見られる。
 人類と亜麗を敵視し、無差別に攻撃を繰り返した。これにより人類はその基盤を完全に破壊され、亜麗百種もその数を激減する。
 大戦終了後、空を雲海によって活動は停滞するも、現在も無差別に惑星上の生命種を消去していっている。
 これ以後、人間種と亜麗は不可侵の交友となり、アリストテレスという共通の敵を排除するまで自らを人類と大きく区切る。
[#ここで字下げ終わり]

 六人姉妹 [No-1 saving system to earth]
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 大戦のおり、亜麗百種の盟主として君臨したモノ。
 その外見は人間種そのもので、六人全員が黒い帽子と箒にのった童話の魔女のような姿をしていたという。一人一人が亜麗百種全てを凌駕する能力を持っていた。
 大戦末期、末妹である「審判」は騎士によって倒されたが、その断末魔によって大陸の中心に断層を作ってしまった。残る五人の行方は不明。
[#ここで字下げ終わり]

 黒いアリストテレス [type:jupiter]
[#ここから2字下げ]
 大陸の西に出現したアリストテレス。
 全長数十キロメートルにおよぶ黒一色の巨人。そのフォルムは人間に極めて近かった。
 正体は黒色の光子ガスの集合体で、理論上その大きさは無限大にまで膨張する。ガスの中心には擬似太陽としか説明できない正体不明の核を持ち、体である光子ガスはその物体から放出されていたようだ。
 八体のアリストテレス中、もっとも生命を消去したモノ。西の大陸に総力戦で戦いを挑まれ、これを無傷で撃退する。……もっともこのアリストテレスに傷という概念はないだろう。
 その後、西の大陸に派遣された騎士団との戦闘の末、騎士エデムの魔剣・斬撃皇帝によって両断される。断ち切られたアリストテレスの擬似太陽は暴走し、西の大陸の地表をすべて灼き尽くした。
[#ここで字下げ終わり]

 十字架 [type:saturn]
[#ここから2字下げ]
 全長三千メートルにおよぶ、十字架のようなアリストテレス。
 その外皮は発光する鉱物で形成されており、模様は一切ない。十字架に似たこの飛行物体は、その体から地上にむけて光の雨を降らしていく。
 雨は1メートルほどの十字型の電磁衝撃で、地上に着弾すると同時に爆散、周囲の生命体を消滅させる。十字型の他に種類があり、そのまま地表に穿孔し地震を誘発、生命が住む大地そのものを破壊する。地表突き刺さる無数の十字架は、荒れ野に広がる墓標そのものだろう。
 空中要塞ともよばれ、惑星圏内にいるアリストテレス達のリーダー格であるらしい。
[#ここで字下げ終わり]

 ブラックバレル [Longinus]
[#ここから2字下げ]
 銃神が所有する黒い銃。全てのジンに相克する鉱物で作られており、ジンを微量でも含む生命体にとっては天敵ともいえる兵器。
 しかし世界に存在するあらゆる生命種はジンの影響を受けている為、これの使用はおろか触れる事さえ不可能となっている。
 神殺しの銃であり、攻撃対象になる生命種が強大な力……すなわちジンを含めば含むほど、その殺傷能力は飛躍していく。
 ……今や希少種となった、ジンを含まず、進化に対応できなかった生命種のみが何の影響もなくこの銃に触れる事ができる。
[#ここで字下げ終わり]

 空が、赤い [blood sky]
[#ここから2字下げ]
 この世界の空のコト。灰色の雲海を越えた上には、青ではなく赤い空が広がっている。
 大気汚染の為ではなく、大戦末期に飛来したアリストテレスの一つ、タイプ・プルートーの血液のためである。
 プルートーを侵入させまいと対決した六人姉妹と相討ちになり、その血液はこの惑星を覆ってしまった。空を包む灰色の雲は、六人姉妹が張った防御膜と思われる。
 この赤い空のなか、侵入を阻まれた残る二体のアリストテレスは海を泳ぐ魚のように浮遊しているという。
[#ここで字下げ終わり]

 天の亡骸 [type:venus]
[#ここから2字下げ]
 全長千メートルと推定されたアリストテレス。大戦以後に出現し、雲海の中を飛行していた。その姿を確認した者はいなく、その形態は定かではないとヒト人はいっている。
 二枚の翼らしきモノを生やした生命体で、他のアリストテレスの比べるとこの星の生命系統樹に近い。
 記録では新暦八十三年に騎士団達による壊滅作戦によって撃墜、大陸のいずこかに落下した、とのこと。本来はその惑星の地表に落下し、大地に根をはり、自分の分身となる胞子を撒き散らして惑星上を喰い尽くす生命種。巨大な動食植物と言えるかも。
 ……ブラックバレルによって眠りについた。
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 銃神 [GODO]
[#ここから2字下げ]
 ……彼の別名。タイプ・ヴーナスを打ち落とした〝鳥堕し〟の際につけられた俗称。皮肉をこめて〝神もどき〟ともよばれた。
 数少ない生粋の人間。ブラックバレルを封印区より発掘し、愛銃とする。
 タイプ・サターン迎撃戦において死去。
[#ここで字下げ終わり]

 アリストテレス [Ultimate ONE]
[#ここから2字下げ]
 他天体より飛来した八体の生命体。
 その正体は各惑星における最強の生命種で、それぞれが一体のみで現存するこの世界の生命種を絶滅させるに可能である。
 アリストテレスという名称はヒト人がつけたもので、カレら本体は名前の概念もない。アリストテレス同士で争う事だけがなく、それ以外は自由に活動している。
 中にはこの星の生命種から〝知識〟の概念を学び、人類と接触するアリストテレスも数体現れる。
 それぞれの故郷である惑星からの勅令を受信し、伝えるタイプ・サターンが消滅したのち、人類と最終戦闘にはいる。
[#ここで字下げ終わり]